〜魚返一真の自伝的小説〜
カメラ屋へ走った。買いたいものはわかっているが商品名がわからなかった。僕は店に入るなり店員に尋ねた。
「すいません。あのぉ〜、白くて折りたたみ式で、光を反射させる・・・」
「ああ、レフ板ですね」
「あ、そのレフ版をください」
レフ板とは、光を反射させるもので、特に人物撮影の場合効果が顕著で顔などに当てると美しい。
僕はそれまでレフ板を使ったことがなかった。それも当然のこと、僕は女の子を撮ったことがないのだから。80センチ×100センチの大きさで、周囲の枠が金属の棒で出来ている折りたたみレフ版セットを買って、公園通りで待っているライターの清家さんとバイトの中嶋君のところへ走って戻った。
ビニールに入った新品のレフを出して歩道で組み立てると、表は銀、裏は白だった。どう使うのかさっぱりわからない。他のカメラマンはどうしているのか見たかったがみんなあちこち散ってしまって周囲にはいない。まあ、光の問題だからスカウトが成功して、いざ撮影というときに女の子の顔に光をあてて判断しようと決めた。
それからレンズに不安があった。集まったカメラマンはほとんど85mmなど中望遠をカメラに付けていたのだが、僕はその日50mm一本で行こうと思っていたから、他のレンズを持っていなかった。僕は、まあ何とかなるだろう、と思ったし、そもそも僕は応援だから期待されていないからダメでも問題ないだろうとも考えて、気楽にいくことにした。
「清家さん、いったいどんな女の子をスカウトするの?」
「うちの雑誌の読者が好む女の子です」
「可愛ければいいんじゃないの?」
「もちろん、そうですけどぉ、それほど可愛くなくても、うちの読者の好みに合ってれば、、、ちなみに編集から、フレアミニスカートの女の子は多めにチェックして欲しいと言われました」
「でも、さっき僕が撮るように指示されたのは、バストショットよりちょい広めってことだから、スカートは写らないけどね」
「そうですね、、でも、フレアミニの子は読者の好みもばっちりなんで、、、」
僕はしゃくぜんとしなかったけど、清家さんがきっぱりと答えたので、きっと何かあるんだろうと思って、しばらく成りゆきを見守った。「あっ、あの子、ほらフレアミニだ」と言うと清家さんは女の子にアプローチした。話がまとまったらしく、清家さんが女の子を連れて僕たちの方へ来た。
女の子をあらかじめ決めておいた場所に立たせた。逆光で髪が金色のシルエットになってきれいだった。中嶋君に正面からレフを当てさせた。右を向かせたり左を向かせたりさせながらシャッターを切った。女の子は緊張していて、笑顔は引きつりっぱなしだった。僕は「無理して笑わなくてもいいよ」と女の子に言った。わざとらしい表情は極力捨てて、自然な表情を撮ることにした。たまにギャグを入れて笑ってもらったりもしたが、基本は素顔を撮ることに徹した。こうして最初の女の子はすんなり撮れたのだが、その後はそううまくは行かなかった。
休日の公園通り、、可愛い子なんていくらでもいそうなものだが、じっくり見るとそれほどいない。みんな上手に化けているのだ。やっと見つけても、スカウトできる確率は非常に低い。僕はスカウトが難しいことがとても意外だった。僕たちは昼食抜きで、午後4時ぐらいまでスカウトをし続け、やっと10人ほど撮影にこぎつけたのだった。
二日目。僕は昨日と同じ場所では撮りたくないなと思ったので、ロケハンをしてちょとした場所をいくつか探しておいた。さらに,同じ場所では二人以上撮らないと決めた。それから昨日と同じ50mmで勝負することにした。街頭での撮影では、モデルとの距離を取りにくいのと、雑踏ではちょっとでも離れるとモデルとコミニュケーションも取りにくいので、中望遠より標準の方が良いなと、前日の撮影でちょっと学んでいた。しかも、今日は曇りで午後からは雨の予報たったから、ビルの谷間はかなり暗くなる。したがって露出の心配もあったから、50mmで解放での撮影を心にとめておけばちょっと安心でもあった。
一日目よりスカウトは順調だったので、時々僕も口をはさんだ。
「清家さん、あの子、だめなの?」
「魚返さん、地味すぎますよ」
「そうかな、あの子、きっと写真ではキラキラするよ」
「じゃあ、ちょっとやってみますか」
清家さんはしぶしぶ声をかけた。女の子は案外すんなりと撮影を了承してくれた。カメラを向けると、何だか恥ずかしそうに微笑んだ。僕はその瞬間連写した。
「魚返さん、あの子、なかなか良かったですねぇ。ウチの雑誌っぽくはないけど、可愛かったですぅ」
「そうでしょう。ああいう子って街に埋没しているんだよ」
「なるほど、じゃあ、またああいう地味で何とかなりそうな女の子がいたら教えてください。行きますから!」
結局、二日で20人撮った。その中に僕が薦めた地味系の女の子が五六人いた。雨が降り出したし、そろそろやめようかと相談していると、他のチームの女の子のライターが僕たちの様子をうかがいにやってきた。
「清家さん、どう?女の子捕まったの」
「まあまあ、かな」
「こっちは二日で10人だけど、清家さんとこは何人?」
「二十人だよ」
「えっ、そんなに撮れたの?」
「二十人でも少ないと思っていたけど、、これって多いの?」
「多いよ、他のチームにも聞いたけど、最高で15人で、ひどいところは二日で五人とかだよ」
僕と清家さんと中嶋君の応援チームは、案外好成績を上げていたようだが、はたして本当にそうだったのだろうか。つまり、雑誌に掲載される女の子の数が問題なのだった。
(つづく)
□まだまだつづきます。どんどん佳境に入ってい行きます。拍手をお願いします!
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