鉄道と彼女2-14*ゆき
2008.6.4
僕は鉄道員になって初めて女の子の部屋を訪れた。そのことの意味を考えてみたが、ここで説明できるような結論は得られていない。ゆきの部屋は、誰にも見つからない迷路の奥にあって、しかもあるべき番地の表示も何もない。そんな分かりにくいところで、海辺のカフカの猫のように暮らしていて、しかもゆきはシロクマと同居していた。
僕がお土産に持って来た3種類の駅弁をゆきは喜ばなかった。ゆきは三つのお弁当が中身の入っていない空箱だったのを見て「空っぽ」と言った。僕は、その認識はある意味正しくない、と言いたかった。このお弁当は本物なんだよ、と言いたかった。つまり現在の駅弁は嘘っぽくて、昔のみたいに本物ではないから、中身が入っていてもそれは偽物だし、僕がゆきに持って来た駅弁は空っぽだけど昔と同じ仕様で本物なんだということ。でも、本当はゆきはそれに気づいていたんだと思う。軽々しく感動しないのがゆきなのだ。玄人肌の感性がゆきを個性的にしているのだ。
ゆきの部屋は何から何までゆき的に納まって配置されていて、少しでも物を動かせば、二度と元にはもどらない。そもそもこの部屋には原型がないからいつも流動的なのだ。「散らかっているでしょう」とゆきは堂々と言ったが、僕は散らかっているとは感じなかった。むしろ、そのおびただしい彼女っぽい小物は無造作という法則に従って配置されていて、あちこちから僕を襲って来る感じがした。ひとつやふたつはすでに僕のパンツの中にまで入り込んでいるかもしれなかった。
鉄道員はゆきの部屋に何をしに来たというのだろうか?おそらくは単に遊びに来たのだ。最初は花札に興じたが、すぐにあやとりになった。鉄道員はゆきの敷きっぱなしの布団の上にあぐらをかいてあやとりをした。それがふたりにとって良いことなのか、楽しいことなのか、疲れるだけのことなのか、何も分からない。ただ鉄道員は、ゆきのことを理解した気がしていた。
<つづく>作品は後日アップします
ケータイ
