□この写真を撮った時のエピソードについて考えてみましょう。とても興味深く、僕たち写真家にとって素通りできない要素を含んでいると思うのです。ただし、この中に出て来る記者にはなんら落ち度もありません。一般的にカメラを持つ人間に対して抱く感情なのではないかと思うのです。むしろ、このエピソードをくれた記者の方に感謝しています。
この日、突然やってきた真夏の暑さの中、僕は2台のライカで一日中お仕事の撮影をしていた。そう、愛用のライカのそろい踏みだからそれなりに楽しい。さて、問題のこの写真は、撮影地Aでの取材を終えて、撮影地Bへ向かう電車の中から撮ったものだ。ある駅のホームのベンチ。うだるような暑さに弱りそうになった身体を休めている二人。一人は女子高生でもう一人は主婦。このふたりの有り様が面白く、僕は「可愛いな」と言って迷わずシャッターを押した。シャッターを押した時、同行していた記者が「やめてください」と僕に言った。最初、僕は冗談かと思ったが、記者の顔つきは真剣そのものだった。面倒だからその場でこの件について記者と話すことは避けた。記者が言った意味について、無断で人を撮ってはいけない、ということだろうと思った。次に女子高生を撮るなんて破廉恥だ、ということもあるかな、とかすかに思う。ところがB撮影地での仕事が終り別れ際に、「もう存分に撮ってください」と記者は言った。この言葉によると、例え移動中でも仕事中だから、撮影はご遠慮ください。となるのだが・・・。
僕はいつもカメラを持って歩く。そして気になったらシャッターを押す。そのことを止められたら僕は写真家ではなくなる。さて、皆さんはこのエピソードについてどうお考えになりますか。
『これって夏?』ライカM4-P/ズミクロン35mm
