懐古編『フルーツスカウト』(4)あなたは女優?

 東京は一日雨。カーペンターズの「雨の日と月曜日は・Rainy Days And Mondays」を聞く。だれもが尖った自分を少しだけ丸くすることができる。雨は人に安らぎをもたらしてくれる。ちょっと振り返って自分の失敗などを思い出してひとり笑いする。今年の春のことだから、懐古編にはふさわしくないけれど、もしかしたらみんなを微笑ませるかもしれないこのエピソードを紹介しよう。

 春の吉祥寺は、なんとなくゆるい午後を楽しんでいる暇な女子高生と女子大生と主婦で街はいっぱいで、特に駅ビルのロンロンはこれ以上人が入る余地がないほどだった。男性?あなたはここへ何しに来たのですか、と言わんばかり。そんな駅ビルの洒落たエリアに僕はいた。なぜ?それはある女の子に惹かれてついて来たから。ほとんどストーカー。その子は22才ぐらい、丸顔でショートカットで髪はとても良く手入れされていた。友達と二人連れ。友達の方はロングでキュートでスタイルもいい今風の女の子、18才ぐらいかな。連れの子の方が可愛かったけど、僕の作品にはショートの子が合っている。そもそも、この子はどこかで見た事のある顔をしている。僕の好みだからそう思うに違いない。以前にもそんなことがあったしなあ、などと考えながら彼女を追う。二人はロンロンの中のショップを数件覗いたあと、外へ。

「あの、すいません」
「はい、何か?」
 と振り返った彼女の顔を60センチの距離で見た時、僕は凍った。あちゃ、どうしよう。どぎまぎする僕に彼女は、、
「あのォ、、何か?」と繰り返す。

 僕が凍った理由を話そう。その日の朝か、その前の日の朝か、僕は彼女に会っていた。ある音楽系バラエティテ番組の中で、、そう彼女は女優。朝ドラにも出ていたから僕は良く知っていた。さらに僕の中でワースト映画ランキング最上位の『◯◯ナデ』にも出演している。では、なぜ彼女を女優だと気づかなかったか、、、それが不思議。僕はこの際、いつもの自分のスタイルを貫いてみることにした。

「あの、僕の写真のモデルになっていただけませんか」
「えッ、、?それは、、、」
「あ、、ダメですか」

 この時、何故か連れは5メートルほど離れたところから様子を伺っている。きっと連れもタレントか女優なんだろうなと思った。街でファンに声を掛けられた時、女優同士ならお互いの領域を意識してこんな態度をとることは考えられる。

「あなた、どこかで見た事がありますよ、え~っと、、、確かタレントの、、、」
「私、タレント??」
「いや違う、女優さんの、、、」

 僕は彼女の名前をど忘れ。さてさっきの疑問、なぜ僕は彼女を女優と気づかなかったか。それって、おばあさんが街でたまたまドラマの出演者に会って。「苦労なさって、、」とか、「あの人をいじめないでください」などと、俳優が演じた役で話かけるようなものか。それは違う。だって僕はそのあとちゃんと女優だと気づいたからね。ちなみに、仕事柄タレントを撮る機会があるが、比較して彼女のそんなに芸能人面していないところが僕に見誤らせたのかもしれない。僕の話にも真面目に対処していたところは人柄だろう。翌朝、彼女の出演している番組を見ながら、僕はひとりクスクス笑った。

 さて、この女優は誰でしょう?

 17年もスカウトしているといろんなことがある。これからも僕の失敗を笑って和んでください。

□ちょっと書き直すかもしれません。とりあえずアップします。
2009-10-26 : 懐古編『フルーツスカウト』 : コメント : 0 :

懐古編『フルーツスカウト』(3)教訓

懐古編『フルーツスカウト』(3)教訓
~スカウトの仕方おしえます~

 1993年頃。プランタン銀座の前。店の前に置いてあるワゴンの中に入っているバーゲン品をあれこれ探している女の子。ロングヘア。今思うと観月ありさに少し似ていた。

「すいません。僕の写真のモデルになっていただけませんか」
「私ですか?」

 彼女の眼は、モデルはできません、という感じだった。ただ、とても感じの良い女の子だったので、撮影ができないにしても一応電話番号を聞いた。彼女もすんなりと番号を僕の手帖に書いてくれた。本当に嫌だったら電話番号を教えてくれるはずはないのに、当時の僕はダメなんだと決めつけてしまった。彼女の名前は、秋山しずく。その時18歳だったと思う。
 それから二年後。古い手帖をめくっているとき、秋山しずくという名前と電話番号のメモを見つけた。僕はすくに彼女に電話した。

「あの、以前に銀座でスカウトした魚返です。憶えていらっしゃいますか」
「はい。憶えています」
「もし可能なら、僕の作品のモデルになっていただけないかと思って。。」
「はい。私でよければ」
「本当ですか。でも僕が今撮りたいのはエッチな写真なんですよ。。」
「・・・、いいですよ」
「えっ、ヌードでも大丈夫なんですか」
「はい」
 と彼女は小さな声で言った。僕は耳を疑った。その後、彼女をモデルにいくつかの傑作を撮った。スカウトした時のモデルの表情で決めつけてはいけないという教訓を得た。女の子が典型的な清純派であっても、自分の撮りたいものがエロスなら、それを相手に伝えてみるべきだ。


1998.7*秋山しずく
このカットは二度目に彼女を撮ったときのもの。1995年のカットが見つかったらアップします。
2009-10-25 : 懐古編『フルーツスカウト』 : コメント : 3 :

『フルーツスカウト』(2)初めてのスカウト

懐古編『フルーツスカウト』(1)初めてのスカウト
~魚返一真のスカウトの仕方おしえます~

 雑誌カメラマンはとても忙しい。仕事の打診を受けたら打ち合せのために編集部へ。そして現場へ行き撮影。終るとその足でフィルム現像を依頼しにラボへ行く。でき上がったころ再びラボへ行きフィルムを受け取りチェックを入れる。チェック済のフィルムを持って編集部へ。編集者とフィルムを見てOKカットを切り出して袋に入れたり、ホルダーにはめ込んだりする。最後に面倒な経費とギャラの請求をする。通常、雑誌カメラマンは複数の撮影依頼を受けているから、時間差でこれらの行程をこなしていて非常に多忙だ。時間に余裕があったらまずそのカメラマンは食べて行けていない。
 時間がなくて半ばスカウトをあきらめていたが、チャンスは意外と早くやってきた。その日は音羽にある大手出版社の若者雑誌の編集部での打ち合せの帰りだった。車で帰る途中、ちょうど目白駅を過ぎたところ、左側の歩道を歩くロングヘアーの女の子を見つけた。道が少し渋滞していたから何度か彼女を追い越しては止まり、今度は彼女が僕の車の横を通り過ぎる。おかげで僕は何度か彼女の横顔を見ることができた。雰囲気が南沙織に似ている。僕は彼女のお尻まで届いているロングヘアーが気に入った。僕は車を停めて、すぐに彼女の方へ走った。

「あの、モデルになってください。写真を撮らせてください」
「私を?」
「そう、君のそのロングヘアー、美しいね。是非撮らせてください」
「撮って、それをどうするんですか?」
「いつか個展を開きたいんです」
「今までに撮った写真があったら見せてくれませんか?」
「それが、まだ一人も撮っていません。初めてスカウトをしたんです。きっと個展を開きます。お願いします。モデルになってください」

 僕は真剣に頼んだ。そして彼女の電話番号を聞くことができた。後日、彼女と会って写真を撮ることもできた。作品第一号だ。ただし、彼女はあの美しいロングヘアーをバッサリと切って南田洋子のような髪で僕の前に現れた。それだけが誤算。でも僕はスカウトに成功したことで大満足だった。実は彼女は奄美大島の出身で、なるほど南の香がするはずだ。
 
 初めてのスカウトが成功したことは、とても嬉しかったし、とても大きな一歩だった。さあ、またスカウトをしよう!と意気込んだのだった。しかし、僕が撮りたい写真であるちょっとエッチな写真をスカウトの時に説明していなかったことが。。。

19920912kumiko のコピー
1992.9.27*中野区にて
彼女に胸元を開くように言ったが、とてもぎくしゃくした憶えがある。
(つづく)
2009-10-23 : 懐古編『フルーツスカウト』 : コメント : 0 :

『フルーツスカウト』(1)スカウトしよう!

懐古編『フルーツスカウト』(1)スカウトしよう!
~魚返一真のスカウトの仕方おしえます~

 1992年9月。プロカメラマンになって1年ちょっと。仕事はこの世界に入る前に自分が思っていた以上に順調だった。しかし、僕は少しずつ悩み始めていた。僕は何になろうとしているんだろう。CMカメラマン?タレントやモデルが被写体の雑誌の写真を自分の作品と言えるだろうか?結論から言えば、それらはカメラマンの作品ではない。では、もっともっと大掛かりな広告はどうだ?いろいろな考え方があって難しい。しかし、堂々とこれが自分だと言える作品を撮らなくてはならないことだけは確かだ。
 僕はまず作品を撮ることを決めた。作品が揃ったら個展を開きたいとも思った。さてテーマを何にするか。僕にできること。僕が一番撮りたいもの。僕がカメラマンとして我がままを許された時に思う最も欲張りなもの。結論はもう出たも同然。女の子、それも自分でスカウトした素人の女の子を撮りたい。モデルや仕込みの女の子たちの作り笑顔にあきあきしていた僕は、ドキドキするポートレートが撮りたくなったのだ。以来17年間一度も脇道にそれたことはない。
 さあ、スカウトしよう!それで、いったいどうやってスカウトしたらいいの?とにかく、熱意しかない。僕はとりあえずスカウトを開始することにした。

□みなさんが僕の作品に関心をもってくれるとき、同時にどうやってスカウトしているのか知りたいと思うようです。これから僕がやってきたスカウトの実際を書きます。
□基本的に事実にもとづいて書いていますが、場合によってはモデルが特定されないように書く場合も出て来ると思います。次回は(2)初めてのスカウト」です。ご期待ください。

2009-10-21 : 懐古編『フルーツスカウト』 : コメント : 2 :
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1992年より一般の女性をモデルに作品を撮り始める。2008年「鉄道と彼女」を発表した。
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