『老人と僕の午後』
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猛暑の午後、僕は帽子をかぶって上水脇のじゃり路を歩いていた。数メートルおきにやってくるケヤキが作る陰を楽しみに、そして眩いばかりの陽射しを恋人あつらえて、石ころに足首をくねらせながらゆっくり歩いていた。僕は身も焦げてしまいそうな暑さから逃げられない状況に置かれたことがなんとなく嬉しかった。
僕と同じような帽子をかぶった老人が二十メートルほど向うから歩いて来る。グレーのズボンに白い開襟シャツを着ている。だんだん近づいて数メートルのところまで近づいて、互いに一つのケヤキの陰に納まったところで、ふたりは眼を交わした。僕は何となく会釈をした。年上の先輩という尊敬の気持ちからだった。すると、その老人は立ち止まり身体を直角におり深々とお辞儀をしたのだった。あわてて僕は「こんにちは」と言った。そして、ふたりはすれ違い、そして遠ざかった。
少し歩いて老人の方を振返ったとき、僕の眼から涙が溢れた。そんな夏のたわいもない一瞬が僕の心を切なくしたのだった。
『古めかしい写真』⇒『青林檎の告白』
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僕の写真は古い。一方で若々しいと評されることもある。ともに事実だろうと思う。
僕は少年時代に見たさまざまな艶などを写真に甦らせている。古い時代を思い起こし撮影するとき、やはり銀塩がてっとり早い。確実に古い時代が写っているからだ。ついでに言うと、デジイチを使わないのは、僕の作品を表現するには不便だから、それだけの話である。
僕がカメラを持つ時、おそらく14才以前の精神状態であることは確実である。だから、僕の古い写真には若々しさも根底に流れている。それは必然だと考えられる。
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季節外れの青林檎を茶の紙袋から出すと青くて甘ずっぱいい匂いが周囲に漂った。それは青い性の匂いだった。moeは樹の根っこに座って青林檎を左手に持ち、右手に持った果物ナイフで丁寧に皮を剥きはじめた。皮を長くつなげて剥いてほしかったけど、なぜか「切れてもいいよ」と僕は言った。
僕は草木の青い匂いに犯された町で育った。僕も青い性を内側に貯めていた。それはバラの棘が刺さった指先に膨らんだ血球のように今にも流れ出しそうな持て余しようだった。
moeは頭が良くて真面目な子。胸は白くてほぼ手にした林檎を半分に切った大きさだった。青い性が彼女を放っておくはずはなかった。「この青林檎、どうする?」「頂いてもよろしいのでしょうか?」「もちろんいいよ」「では今日これから大学へ行ってから頂きます」賢さと謙虚さこそがmoeの魅力であり、そこへ青いエロスが見え隠れしていた。
『青林檎の告白』より
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□林檎の写真ですが良い具合にふるめかしい写真です。ついでに、2009.5.26に撮影した『青林檎の告白』の原稿に手を入れてみました。
僕の写真は古い。一方で若々しいと評されることもある。ともに事実だろうと思う。
僕は少年時代に見たさまざまな艶などを写真に甦らせている。古い時代を思い起こし撮影するとき、やはり銀塩がてっとり早い。確実に古い時代が写っているからだ。ついでに言うと、デジイチを使わないのは、僕の作品を表現するには不便だから、それだけの話である。
僕がカメラを持つ時、おそらく14才以前の精神状態であることは確実である。だから、僕の古い写真には若々しさも根底に流れている。それは必然だと考えられる。
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季節外れの青林檎を茶の紙袋から出すと青くて甘ずっぱいい匂いが周囲に漂った。それは青い性の匂いだった。moeは樹の根っこに座って青林檎を左手に持ち、右手に持った果物ナイフで丁寧に皮を剥きはじめた。皮を長くつなげて剥いてほしかったけど、なぜか「切れてもいいよ」と僕は言った。
僕は草木の青い匂いに犯された町で育った。僕も青い性を内側に貯めていた。それはバラの棘が刺さった指先に膨らんだ血球のように今にも流れ出しそうな持て余しようだった。
moeは頭が良くて真面目な子。胸は白くてほぼ手にした林檎を半分に切った大きさだった。青い性が彼女を放っておくはずはなかった。「この青林檎、どうする?」「頂いてもよろしいのでしょうか?」「もちろんいいよ」「では今日これから大学へ行ってから頂きます」賢さと謙虚さこそがmoeの魅力であり、そこへ青いエロスが見え隠れしていた。
『青林檎の告白』より
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□林檎の写真ですが良い具合にふるめかしい写真です。ついでに、2009.5.26に撮影した『青林檎の告白』の原稿に手を入れてみました。
『公序良俗・その3』
あなたの言いつけどおり、わたしはここに立っています
雨に濡れても、この乳首が鳥の餌食になったとしても
わたしはここに立っています
栗鼠に耳を噛まれても、蛇に白い下着を食いちぎられたとしても、
あなたの言いつけどおり、わたしはここに立っています
でも、ひとつだけお願いがあります
写真だけは撮らないでください
⁂
実際のところ、公序良俗に反するものお断り、という世間のキャンペーンと僕が写真を撮る意識には距離がある。つまり、僕は反するスタンスで写真を撮っている。文章や絵画などの芸術においては公序良俗に反する立場で表現することがある程度許されているが、写真の場合は違っている。写真はまだ芸術と言えない表現なのだろう。いずれにしても、僕の作品の中に公序良俗に反するエロスが静かに流れていることを願うばかりだ。
⁂
□写真塾に参加してください
写真塾では公序良俗に反する写真は撮れません。写真塾以外の場所で、あくまでも一人のカメラマンとしての立場で自らの責任において淫らな作品を撮って欲しいと考えています。写真塾に参加すれば塾中において妄想写真を撮れるということではありません。写真塾では、あくまでも技術をお教えしております。写真を一緒に楽しみ上達を考えている方の参加を心よりお待ち申し上げます。なお、本年夏開催する第3回グループ展の参加者も募集しています。
□めずらしくデジカメで撮った写真です。モノクロもあります。。
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『公序良俗・その2』

⁂
女子高生だね、ホテルだけど?
問題ないよ、触れてもいいけど撮らないで
撮ってもいいけど触れないで、じゃないの?
おじちゃん、古いね、今はこっちなの
⁂
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公序良俗には見えないばかりか動くラインがある。僕は表現者としていつもラインの外側にいる自分を意識しながら撮影している。『偏ってこそ作品』と言った人がいる。その偏りはラインを飛び越して、ずっと先の暗闇にまで達している。苦しみや哀しみ、そして喜び、エロス、どれだって偏ってしまえばラインの内側にはない。
僕の作品はラインの内側にありそうに見えても決してそうではない。僕の心は闇を幸福なねぐらとしているからだ。できあがった作品はどれも公序良俗を踏み越えていることを暗示ししていなければならない。
(つづく)
『公序良俗・その1』

⁂
わたしを撮らないでください
わたしは私生活を知られたくありません
あなたを撮らせてください
あなたの匂いの手がかりが欲しいのです
わたしを撮らないでください
わたしは白い下着を脱いでしまったから
あなたを撮らせてください
あなたの身体が香りたっているときに
わたしに触れないでください
わたしはあなたが怖いのです
決してあなたに触れはしません
僕だってあなたが怖いのです
⁂
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写真家にとって大切なことは何でしょうか。技術でしょうか。感受性でしょうか。愛でしょうか。エロスでしょうか。僕は勇気だと思うのですが。勇気とは正直になることではないでしょうか。タイトルを公序良俗としたのは長いあいだ僕の中で異を唱えて来た一節であるからです。それについて少し語れたらと思っています。
(つづく)
『好きですか』
『時計はあなたを待っている』
『tanpopo』・・・2012.4.24記
『春の赤い靴』

2012.3.18写真塾/model*理乃
☆
本当に春が来るのだろうか
もうすぐ空一面の桜、タンポポの絨毯
実はそんな気配すらない
だけどそれはそれ、赤い靴
さて、知恵の輪をやってみよう
いじくっているうちに外れる
理乃と過ごす時間はデタラメな言葉遊び
だけどそれはそれ、赤い靴
知恵の輪が外れた時の喜びより残念な気持ち
ディランの曲のヘタな訳詞を読んだ時の微妙
嫌いなカラスがいないことの不自然
だけどそれはそれ、春の赤い靴
☆
☆ ☆
☆
□ネガカラーは寒々しい空気をあるがままに描いている。寒々しい日曜日の塾。理乃はこの日も彼女のスタイルを通す。乱暴なカットと洒落た古着。理乃の複雑な心。赤い靴を履いた足だけの写真だけど、何かを語っている。
『NO PROBLEM#もんだいない』

☆
『NO PROBLEM#もんだいない』
古いプラナー、あの子の写真といっしょに引き出しの中にあった
あの肌を舐めた前玉にカビはない
ベッドの下に転がったストロボ
電池を入れたが死んでいる
NO PROBLEM
実は発光が好きじゃない
蝋燭の明かりで女の子を
二百四十時間、ベッドに埋もれてなんとか生きていた
その間なにをしていたかというと
デューク・ジョーダンを聴いていた
あの子との思い出のDUO
NO PROBLEM
フィルムを買いにいこうか
つまり、蝋燭の明かりで女の子を
☆

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□プラナー=コンタックス用のレンズ。プラナー50mmf1.4
□ストロボ=コンタックスTLA280、電池ボックスが錆び付いている
□蝋燭=ローソク、最近蝋燭が好きになった
□NO PROBLEM=デューク・ジョーダンが作曲した映画『危険な関係』のテーマソング。YouTube⇒
□写真は2002年10月。高田馬場にあったDUOでマスターに断って撮らせてもらったもの。DUOは良い店だった。もうないのだろうか。model*千春、、撮影はプラナーではなくエルマー50mmf2.8

DUOで千春が僕のカメラで僕を撮った。
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