『普通の女』(1)→(2)→(3)NEW!

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2006年、中央線・西荻窪駅


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 すれ違いざまに女の横顔を眼で追う。瞬時に髪質を確かめる。耳の形状を細部まで見ることもある。振返り女の脹ら脛と足首のかたちを確かめる。それをごく自然に繰返す。毎日、来る日も来る日もである。すれ違う女のどこかに、自分への誘惑が潜んでいると思いたかった。
 その日も男は同じように誘惑を探していた。それが彼の生活の中で僅かな潤いであった。ただそれ以上のことではない、しかしそれ以下でも到底なかった。何故ならそれを20年続けている。さらにそういう日常的に行う不倫に精神は高揚している。
 
 ある日、男は女の顔をカメラで撮った。写真ができ上がると、見ず知らずの女の顔があった。美人ではないが、醜くもない。普通の顔だった。

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『普通の女』(2)

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 男は写真を裏側につっかえ棒のある小さな額に入れて机の上に置いた。曲がった喜びが冷たく口元を這うのがわかる。恥ずかしさも湧いてくる。その盗人のような羞恥は、女の外見が普通であることで増幅されていた。男にはそれがやがて甘ったるい別の感情に変化するかもしれないという身勝手な妄想があった。

 男は再びカメラを持って街へ出た。前より少し欲があった。机の上の普通の女より美しい女を撮ろうと思った。
 写真ができ上がると、見ず知らずの女の顔があった。女は美しかった。美しい女の写真を額に入れ机の上に置いた。しかし、男の喜びは小さかった。恥ずかしさもあまりない。なぜだろう。その理由は簡単だったが、ふたりの女の写真を机の上に並べて初めてわかるものでもあった。物事の最高潮がどこなのか、過ぎた記憶の中から時間を戻しながら検証するしかない、たったふたりの女の比較でさえ、そういうことだ。そして、男の選択は普通の女だった。
 男は美しい女の写真を引出しの中にしまいこんで、普通の女の写真だけを飾った。すると、心の中に喜びと羞恥が同時に湧いてきた。

 男は街へ出て女を探しはじめた。机の上の写真のように普通の女だ。


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2006年、中央線・荻窪駅

*-*-*-**-***-*-*-----*-*-*---------以下はあたらしくアップした部分

『普通の女』(3)NEW!

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 男はカメラを持って普通の女を探しに行った。街にはファッショナブルな女が眼についたし美しい女も思いのほか多くいた。しかし、男が撮りたいような普通の女はなかなか見つからなかった。
 普段街を歩いているとき美人は明らかに少なかったはず、どこもかしこも普通の女ばかりだったではないか。それとも、それは錯覚だったのか。いざ普通の女を撮ろうとすると普通の女が見つからなかった。男は一日中普通の女を探しまわりやっとフィルム一本分の撮影ができた。

 写真ができ上がると、見ず知らずの女の顔があった。美人ではないが、醜くもない。どの女の顔も普通だった。その中から三人選んで額に入れ、すでにある一枚の普通の女の写真とともに都合四枚を机に並べた。男は喜びと同時にまとわりつくような恥ずかしさを感じた。男はその羞恥の中に真実のようなものがあると気づき始めていた。


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☆4カットとも2006年撮影(上から)中央総武線、西荻窪、中央総武線、吉祥寺。

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□写真は物語と関係があるかもしれないし無関係かもしれない。モデルの顔を普通であると表現している。受取られ方によっては不快かもしれない。だけど、僕は彼女たちを大好きだし目立って魅力的だと思うからこそシャッターを押したのだということを強く真摯に申し上げたい。
□男は僕かもしれないし、僕ではないのかもしれない。この話には続きがあるのだが・・・







2013-01-09 : 短編 : コメント : 0 :

温もりをください

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ながい冬のあいだに凍った身体は
遅すぎた春にはとても解かすことができなかった
永遠につづくかのような夏ですら
ただ忍耐を培ったにすぎなかった
瞬く間に終わった秋を悲しむ間もなく
いままた忌まわしい冬がきてしまった
せめてあなたの脚の温もりをください

良いお年を。

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平成24年12月31日
妄想写真家・魚返一真
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2012-12-31 : 短編 : コメント : 0 :

『純喫茶の女』・・・2012.12.23

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            †

 秋葉原から山手線の内回りに乗り戸袋の脇に立っていた。パイプの手すりを隔ててすぐ右下の座席に座っている若い女が僕を見ている。女の髪は茶のロング、身なりは良く顔はややエキゾチックだった。かなりイイ女である。御徒町で降りると女も僕の後を追うように降りてきた。立ち止まり、何か僕に用があるのか尋ねると、女は僕を知っていると言う。まさか、念のため過去に関わった女を思い出してみた。むかし関係があった女にしては若すぎる。それに美人すぎる。
 北口改札を出た。女も僕について出た。振り切らなかったのは女に少し興味があったからだ。改めて女の全身を見れば、足は細くスタイルも良い。連れて歩けば鼻高々であろう。僕が御徒町に来たのは、喜久屋カメラというレトロなカメラ店へ行き取り置きしてもらっているローライフレックスのパーツを受取るためだった。女にそれを告げると喜久屋カメラへ僕と行くと言う。この時の僕は、女を面倒な存在ではなく歓迎する方向に向かっていた。女に御徒町に来た理由を尋ねると、好きな喫茶店があるからと答えた。つづいて、僕の用が終わったらその喫茶店へ行こうと言った。
 僕が歩き出すと女もついて来た。北口を離れて横断歩道を渡ってすぐ右手に喜久屋カメラがあった。店は折からの銀塩不況のせいか展示スペースが狭くなっていた。以前は、階段を降りると地下いっぱいに広がる空間におびただしい数のドイツ製カメラが展示してあった。そこは愛好者の楽園さながらだった。いつもならカメラの夢を見ながら楽しい時間を過ごすところだが、女の処遇が気になって、速やかに買い物を済ませて店を出た。
 今度は僕が女の後をついて御徒町の商店街を歩いた。すぐにお目当ての店に着く。何のことはない古い純喫茶だった。そして、当然のように純喫茶と看板が出ている。看板はかなり古かった。メニューを飾るショーウィンドーも古い。何もかもが時代遅れだった。おそらく1970年代のものだろう。1974年に東京に出て来た僕も今では完全に時代遅れだという確信が頭の真上で停止した。淋しさに襲われた。この気持ちを女に悟られないように、レトロな喫茶店をそこかしことなく褒めて女の先手を打った。
 店に入った。地下一階に降りるとさらに階段があって地下二階もある。僕たちは階段を降りて地下二階の席についた。複雑な照明、造花、ステンドグラス、天使の裸像、意味不明な構造の天井部分、それを、柱を覆うように貼られた薄汚れた巨大な鏡が映し、この場所をさらに複雑に見せていた。
 僕たちは飲み物を注文したあと長い沈黙に浸るよりなかった。


            †

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□僕は僕かもしれないし僕ではないのかもしれない。事実に基づいているが、そうでもない部分もあるかもしれない。この話には続きがあるのだが・・・




2012-12-25 : 短編 : コメント : 0 :
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Author:ogaeri
1992年より一般の女性をモデルに作品を撮り始める。2008年「鉄道と彼女」を発表した。
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