今日、僕は奥多摩へ行く。青梅線沿線のあのうっそうとした山の木々は故郷の森の艶かしい香や初恋の思い出を蘇らせてくれる。少年時代、僕は鉄道ファンだった。経緯は省くが、ほとんど必然的にそうなった。そして時が経ち、鉄道と初恋は同じ思い出の中に同居するようになった。僕は今日も鉄道を撮る。そして、明日菜を見つけた日から5日目の今日、僕は少年時代の思い出の香の中に明日菜を連れて行くのだ。
電車の窓から白いブラウスとグレーのジャンバースカートを着てバイオリンケースを持った明日菜を見つけた時、あまりにも可愛く可憐で、僕は少年のようにときめいた。
「ありがとう」
待ち合せした駅で会った時、僕はしばらくそれ以上言葉がなかった。
僕たちは青梅で奥多摩行きに乗換え、白丸駅で降りた。終点奥多摩まではあと一駅だ。ホームの下り側はトンネル、上り側は踏切になっている。なんだか僕たちだけ取り残されたみたいだった。ホームの上り側の端に明日菜を立たせた。
「バイオリン、演奏して?弾くふりをするだけでいいよ。エアバイオリン」
「あっ、はい」
明日菜はバイオリンのケースを置いてエアバイオリンを構えた。トンネルをバックに演奏する明日菜の可憐な姿はむかし見た(みたことがあるはずないのだけれど)のアニメのシーンのようにも見えた。
今度はホームの上り側の踏切の方に降りた。そして、五段ほどの石段に明日菜を座らせた。
「明日菜ちゃん、あのォ、ちょっとスカート上げてみてくれない」
「……」
その後も僕は駅周辺、と言ってもほとんど駅から10メートル以内で明日菜のエアバイオリンのポーズを交えながら撮影をした。そして、僕たちはほどなくやって来た上り電車に乗って白丸駅を後にした。
「ありがとう。何だかジ〜ンとして、素敵な時間だったよ」
「そうですか。良い写真が撮れていると良いですが」
「大丈夫。早く君と別れて、さっきまでのことを思い出にしなきゃ」
「……」
白丸駅でカメラを構えている時、僕はほとんど少年時代の自分のような気分だった。今、明日菜と一緒に電車の座席に座っていても、これは思い出の一部なのかな?と錯覚した。実際のところ、僕はそうであって欲しいと思っていたのだった。

*ケータイ
*この撮影シーン映像は10thトークライブで上映します