『イブに君と川へ行く』


2016.12.24 model*たま子

                  ﹆

 イブに予定がない僕たちはこの行き止まりの町をさまよい歩くことになった。僕たちが歩いている道の百メートル左側は大きな川で、道と川の向かう方向のせいで、次第にその距離は縮まっている。今日に限って言うと、できたらその川には行きたくないと考えていた僕たちは、だんだん足取りが重くなっていた。
 娘と会って、電車に乗った時、ミニ写真集を渡した。でも、これクリスマスプレゼントだよ、などとは言わなかった。僕にとって、そして娘にとって、そんな軽いものではないから言えなかったのだ。そして、その本を手にした娘は何も語らなかった。ついに、道は川とぶつかって平行になった。僕たちはしかたなく土手を越えて河川敷に下りた。

「あのぉ、撮りたいのがある」と僕が少し躊躇しながら言うと、娘は無言で、なんでしょう、と眼で言った。
「ぱんちら」と僕が言うと、またそんなことおっしゃって、仕方ない方ですね、と眼で言った。

 結局僕たちはいつものようにマスターベーション的な領域を出ることない撮影をした。何度撮ってもその感覚は新鮮で、この娘の中にある普遍性と関係があるとまた思った。
「きみ、ヴァージンだよね、つまり処女」と言うと、娘は沈黙していた。


                  ﹆



□この作品をご覧になりたい方は拍手をお願いします。

tamakomini1-2.jpgtamakomini2-2.jpg


2016-12-25 : 29th個展へ向けて : コメント : 0 :

『十二月の折り鶴』



2016.12.19 model*さくら

                  ﹆

 僕は子供のころ鶴を折ることができなかった。従姉を見習ってもできなかった。そのことで僕はわずかに劣等感を持っていた。何事にも努力をしない僕はずっと折り鶴から自分を遠ざけていた。そして、僕が老人に近づいた今でも鶴を折ることができない。

 娘の印象はとても日本的で情緒がある。さらに折り鶴を上手に折ることができるのだから素晴らしい。今から僕は娘と一緒に電車に乗って冬の昭和へ行くつもりだ。座席に向き合って座ると娘は正方形の色紙で鶴を折り始めた。娘と従姉が重なった。昭和三十七年(たぶん)の冬休みに従姉が僕の家に来たとき、コタツに入ってみかんを食べて、そして折鶴の折り方を習った。従姉は、僕がなかなか折れないのを見て「わたし、もう行かなくちゃ」と言って川の向こう側にある映画館へ向かった。その日、映画館では橋幸夫ショーの公演があったのだ。ショーのチケットは小さな商店街の歳末大売出しの景品で、僕の家は小さな商店だったから従姉はそのチケットを持っていた。さて、電車の中の娘は鶴を折りながら僕に向かって乳房を見せているように見えた。僕の妄想に違いないのだが、確かに僕はフィルムカメラでその妄想を撮った。本当に娘の乳房が写っているのかは、現像してみなくてはわからない。

 川へ出た。四ヶ月前に麻菜の『すてきな17才』を撮影した場所、まったく同じ立ち位置。背景が夏から冬に変わっている。麻菜の時は、夏に生えている草花を摘んで束ねて腕に抱かせたけれど、今日はほぼ枯れた草たちと暖かい土手に生えた季節外れの紫ツメ草を束ねて手渡した。ファインダーを覗くと手には折鶴。胸元にはやはり白い乳房が見えていた。

                  ﹆


 

□この作品をご覧になりたい方は拍手をお願いします。。。




2016-12-21 : 29th個展へ向けて : コメント : 0 :

『冬の日溜まりにて』



2016.12.17model*A.K

                  ﹆

 娘と出会ったのは中央線西荻窪駅だった。僕は娘の後に続いて改札を出て西荻窪らしい狭い路地を抜けたところで声をかけ、その場で写真を撮った。(写真参照)そのときは気の弱そうな愛らしい娘だと思ったが、ずっと後になって娘の気はかなり頑丈だとわかった。撮影メモには「2008年8月18日西荻窪にて撮影、娘はジャズボーカルのレッスンへ行く途中」と書いてあった。あれから十年がたった。

 娘は女になっていた。「もうおばさんの歳ですから・・・」「いえいえ、いい女になりました。素敵に歳を重ねています」「またまた。。」「いいえ、ほんとうです」事実、或る瞬間に女の横顔がH.IGAWAに見えるほど魅力的だった。僕は毛皮のコートを羽織った女と土手を歩いた。僕たちが土手の自転車道路を跨ぐ時、何人かの人のいぶかし気な視線を感じた。この二人の関係は何なんだ?みたいな。「先生に撮ってもらうの久しぶり」「先生なんてよしてよ」「では何と呼べば良いのかしら」「そうだな、おじさま、なんてどうかな」「あら、キャバ嬢だってそんな呼び方しませんよ」

 河原に着いた。十二月の午後は日が落ちるのが早くすでに陰が伸び始めていた。「そこに座ってください」と僕はゴザを敷いた地面を指差して言った。その後は女の独壇場だった。つまり、女は自分を美しく魅せることを知っていて、刻々と変わりゆく冬の光の中で、女優H.IGAWAのように舞ったのである。ただH.IGAWAと違ったのは、やや小柄なのと女が美しい乳房を露出したことで、実際その魅力的な姿はH.IGAWAに決して負けていなかった。

                  ﹆


20060818ayumi-2.jpg



□この作品をご覧になりたい方は拍手をお願いします。。。






2016-12-18 : 29th個展へ向けて : コメント : 0 :

『山に住む少女へ』


2016.12.10 久住連山にて

                  ﹆

 熊笹の中へ分け入った。地面はまだ凍っていて笹の葉の上には霜が降りている。朝陽が当たり始めたところは霜が融けて水滴が光っている。道はどこまでも登っているかのようだ。息が切れる。ついにぜーぜー言い始める。少し立ち止まり休憩する。これまでの人生の思い出が数秒のうちに通り過ぎるのを感じた。何と儚いことか。背負ったリュックにはローライフレックスTと雨ちゃんにプレゼントされたトライX、それから冬のセーラー服の上着が入っている。どれくらいの時間歩いただろうか。ついに山頂に着いた。リュックから制服を出し背の低い樹に掛けた。あれ?どこかで観た光景。オリビアが浜辺で夏のセーラー服を撮った写真を思い出した。頭上に自衛隊のヘリが阿蘇山の方向へ飛んでいく。セーラ服を手に持ってヘリに向かって降るとサーチライトが点滅した。その意味はわからない。僕はローライフレックスTを出して雨ちゃんに感謝しながらトライXを詰めた。これから撮る写真の意味はほとんどない。意味がないことに清々しさを感じる。山頂にまでカメラとセーラー服を運んだことに勝る意味などないのだろう。人は面倒なことに熱中し、それ自体に意味を感じるものなんだ。この山に住む少女よ、僕の前に現れてくれ、そして願わくばこのローライで撮らせてくれ。

                  ﹆


□この作品をご覧になりたい方は拍手をお願いします。。。




2016-12-13 : 29th個展へ向けて : コメント : 0 :

ミニ写真集『たま子』


tamakomini1-2.jpgtamakomini2-2.jpg

ミニ写真集を作りました。
タイトルは『たま子』。
文庫本サイズながら144ページの大作。
たま子のすべてを収録しました。(つもり)

このミニ写真集は、まずモデルになってくださったたま子ちゃんへの感謝の気持ちで作りました。そして女性の作品を撮り始めてから25年目を迎えた僕自身へのプレゼントです。

作りたいから、作ってあげたいから、
大げさに言えば、作るしかなかった、、
そんな感じでした。

制作中は撮影の日々の記憶を甦らせることができた。
出来上がったものを観て静かな歓びと感激がありました。

本をたま子ちゃんに手渡して、
第二作と第三作のミニ写真集を同時進行します。
(Olibiaと美月ちゃん)
三月に神保町画廊で開催する個展の目録もミニ写真集にしようと思っています。でも、そんなにたくさんは作れないかも。。。
2016-12-05 : 29th個展へ向けて : コメント : 0 :

『次は神保町画廊』


 九月の個展が終わってから何かに憑かれたように写真を撮り続けた。連続していた撮影があるきっかけで途切れた時、僕はふと我に返ったみたいに来年のことを考え始めていた。つまり、次にやらなくてはならないことから避けるために撮影をしていたという面は否定できない。もちろん、その間に撮った写真はどれも良いのですが。

 次のこと、それは三月に開催する神保町画廊での個展です。これまでに開催した28回の個展はすべて自分だけでやってきた。(もちろん多くの方が手伝ってくださったから)つまり、初めて画廊で開催することになったのです。もちろんとても期待してるけど、むしろ不安なことばかり考えてしまう。そもそも僕はそういう人間なのです。撮影前日の撮影予定時間にロケ現場へ行って、その場所に立ってみて、精神的な不安を解消していることも僕を表しています。
 
 神保町画廊での打合せを数週間後に控えたころ、ミニ写真集を作り始めた。最初に選んだ写真集のタイトルは『たま子』で、それは一週間ほどで完成しました。自分好みのミニ写真集ができました。以前から僕はこのミニ写真集の神保町画廊ヴァージョンを作りたいと考えていました。2004年頃、狭い会場で個展を開催する時に作ったテキスト本の写真入りです。そのテキスト本を読みながら展示した写真を観てもらっていたのです。

 愛車が故障しました。先月車検を通したばかりでした。修理に数日かかるけどすぐに直ると思っていました。この車は16年乗っている僕の相棒です。僕はとてもショックを受けました。車と同調するように僕の体調も悪くなりました。(後に重大な損傷が見つかってしまいました。修理できるのか・・・)

 打合せのために神保町画廊へ行く日が来ました。当初は車に写真集やファイルその他の資料を積んで行くつもりでしが車がありません。しかたなく派手なリュックに数冊のファイルを詰めて、あとはミニ写真集の『たま子』のテスト版を持って家を出ました。画廊に着くと、佐伯さんが待っていてくれました。コーヒーを出してくれた後は僕の個展のことを話し合いました。佐伯さんが考えていることが何となくわかりました。ひとりで考えてやってきたことと違う意見があることに新鮮な悦びがありました。二十四年間に撮影した作品が佐伯さんの眼を通して並べ替えられるのも悪くないと思いました。とても有意義で、あっという間の二時間でした。
「近いうちに、また打合せしましょう」と佐伯さん。
「ええ、神保町画廊で逢いましょう」
「さようなら・・・」




□第29回魚返一真個展『神保町画廊で逢いましょう』(仮題)
2017.3/3(金)3〜3/3(月)
神保町画廊にて開催


□第7回魚返一真写真塾グループ展『ALL GIRL.7』
2017.9/19(火)〜9/24(日)
渋谷ギャラリー・ルデコにて開催
※参加者募集中。(参加可能数があと二名になりました)


2016-12-02 : 29th個展へ向けて : コメント : 0 :
ホーム

プロフィール

ogaeri

Author:ogaeri
1992年より一般の女性をモデルに作品を撮り始める。2008年「鉄道と彼女」を発表した。
このブログのすべての写真や文章などコンテンツの無断コピー、無断転用を禁じます。

月別アーカイブ

ブログ内検索

FC2カウンター