『昭和ガール・タクトのえくぼ』・・・2011.10.23

 秋はブルーだ。明け方まで降った雨も上がって薄日が射してきた西荻の一番ホームのベンチに座ってアート・ペッパーのバラードをリプレイモードにして聴いている。ストリングスが入って思い切りセンチメンタルな曲だ。ふと、少年時代を振り返って、遠くまで来てしまったことを悔いる。ずっと故郷にとどまることだって出来たはずだ。
 これからタクトを撮る。タクトは少女だ。本当の名前は、漢字で書くと『木』という文字が三つもあって書きづらいらしい。僕はそのややこしさを気に入っていた。『木』に埋もれた子、森に捨てられた子だ。万が一、『森』という姓の男子と結婚したら、木が六個になる。森林ならどうなんだ。

 制服姿のタクトがやってきた。
「君、中学生?」
「いいえ」
「いくつ?」
「十八才です」
 僕は、さりげなくえくぼを見せる女の子にいきなり惹かれる。その反射は少年時代のトラウマなのだった。そして、そのえくぼがタクトの口元にあった。
「君、今しあわせ?」
「えっ?まあ、そうだと言えると思います。どうしてそれを聞いたのですか」
「ただ、君に会ったらそれを聞こうと思っていたんだ」
 僕はタクトのえくぼを撮った。
 写真を撮って、その後は十分ほど千葉行きが来るまでベンチでタクトと話し込んだ。
「君、何か持っている?」
「はい。この2冊」
「少女マンガ『ポーの一族』はわかるけど、この『通勤電車・なるほど雑学事典』とは?」
 そして、黄色いラインをカラーリングした電車がやって来た。
「さよなら、タクト」
「はい、さようなら」

 僕はまたアート・ペッパーの泣けるアルトを聴いた。そして、1972年に萩尾望都が書いた『ポーの一族』を読んでみようと思った。『ポーの一族』の主人公は四才の時に森に捨てられた子。




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2011-10-23 : 昭和ガール : コメント : 0 :
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1992年より一般の女性をモデルに作品を撮り始める。2008年「鉄道と彼女」を発表した。
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