『あの夏の匂い』・・・第三章

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2008.7 八王子にて model*yuki
 雑木林の中でさよならを。

           ☆

 誰もいない僕の個展に一人で来て写真をひとまわり見て、すう~っと消え去ろうとする女をエレベーター前で呼び止めた。僕は完璧な出会いだと思った。それは、二人きりのバスの中で起きるような、絶対的な出会いに思えた。つまり、僕がバスの運転手で、車内にはたった一人の女。女は何かの理由で乗車賃がない。僕たちは否応なく会話を進める必要がある。

 自分を自分だと言うこと。自分がしたいことを明確に伝えること。僕はそのことがずっと怖い。女はそれをきっぱり言える。女というものがそういう生き物なのか、この女だけに備わった素養なのか。   
 仏蘭西へきたしと思えば、躊躇する様子もなくあまりにも遠い仏蘭西へ旅立つ。僕なら、故郷へ三回ほど返って、三回目で両親に百回さよならを言ってから旅立つほどの重大なことなのに。しかも、両親は死んでいる。

           ☆

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2012-03-03 : 記憶 : コメント : 0 :
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ogaeri

Author:ogaeri
1992年より一般の女性をモデルに作品を撮り始める。2008年「鉄道と彼女」を発表した。
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