『小さな靴』・・・2012.5.24


 彼女は突然ギャラリーに現れた。マスクで半分顔を隠して、
「わたし誰だかわかりますか」と言った眼を見て、
「もちろんわかるよ。生きていたの?」と僕は言ったあと彼女が無事だったことに安心した。そして、
「あと、これ」と彼女はお腹を両手で抱えて見せた。

          ☆

 彼女の家を訪ねた。以前撮影した部屋から引っ越していた。しかし、この部屋も乙女チックだった。小物、本、古着、カメラ、みんな彼女が彼女であるために必要なものだ。そして意味ありげに小さな靴があった。
 その時僕はある詩を思いだしていた。直接的に彼女のことが関係しているわけではない。むしろ自分の気持ちの中に写真家としてぎりぎりのものがあったことが影響していた。

 彼女はマタニティーのワンピを脱ぎ膨れたお腹をさらけ出した。僕は厳かな気持ちでシャターを押した。チッ!と1/30でシャッターが落ちた。僕の耳にはややもたれ気味に聴こえた。1/15ぐらいに。どうか無事に生まれてくれよ。君の命は尊いものだという思いだった。



「さようなら、あとそのお腹」
「はい。大丈夫」

 ドアの外で僕を見送る彼女を撮った。また詩がよぎった。その詩は『死なない蛸』だった。


          *+*+*+*+*


□『死なない蛸』に諸説あるのは承知している。ここでは彼女のたくましさを信じ子供の永劫の生命を約束する意味と、写真家としての僕の有り様、という意味で引用している。死という文字を使うことを不謹慎に感じる人もいるだろう。例えば僕の父親のように全ての番号から4と9を消し去った人のように。しかし、僕はむしろ逆のイメージを持つ。生命力を讃えるような・・・。あえてこの詩を登場させることはないだろうと感じるかもしれないが撮影当時のあくまでも事実として書いている。

□この作品をご覧になりたい方は拍手をお願いします。




            ☆

彼女とはこの写真の人です⇩

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2012-05-25 : リトルファンタジー2012 : コメント : 0 :
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Author:ogaeri
1992年より一般の女性をモデルに作品を撮り始める。2008年「鉄道と彼女」を発表した。
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