『ただそれだけのことだったはずなのに・ユウとホノカ』・・2012.6.2

          ☆

「ユウちゃん。こんにちは。実は港で白いワンピース姿の優ちゃんを撮りたいのです。大きな船が停泊する港です。このごろ僕は港を見たいと思うことがあるのです」
「こんばんは。あいあぐりーうぃずゆー!わたしも港行きたいです」

           ☆

 東横線の駅の改札を出たところで待っているとユウは同じクラスの友達、ホノカと現れた。三人で少し話をしてから港へ行こうということになって駅前のファーストフード店に入ったのだが、何と1時間半も話し込んでしまった。二人は目をしっかり見開いて僕の話に聞き入って、ユウは時折僕の話の中のからくりを見抜いたとばかりにコメントを差し入れて、ホノカは僕の方をまっすぐに向いて一つ一つ確かに受け止めたという顔をした。そんな二人を前にした結果、僕は真剣な眼差しから逃げるすべをなくし長時間語り続けることになったのだ。
 
 どんな話をしたか。ほとんど、僕の失敗人生についてだったと思う。ともあれ、ユウとホノカが僕の話に夢中になっている無垢な姿が愛らしかった。

「わたしは哲学的なことを聞くのが好きです」とホノカがぽつりと言った。
「わたしも魚返さんと同じようなことを考えたことがあったの」とユウが目玉をくるくるっと廻して得意気に言った。ユウはいずれ何らかの才能がほとばしる子で今はその片鱗をみせるのみ。ホノカはゆっくりと時間を動かす才能を持っている子。


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「もう港へ行く時間がないね」と僕。
「じゃあ、お隣の駅まで歩きませんか!」とユウ。
「ふんふん・・・」とホノカ。

          *-*-*

 梅雨入りが近い薄曇りの天気だった。三人は路地を抜け、ちょっとした坂をのぼり住宅街を見下ろす空き地に迷い込み、そのあと迷路のような細い道を行き、古い池のほとりを通り、市営プールの柵沿いに歩いた。そして小さな商店街を抜ける途中、おはぎ屋さんのウインドーを覗きながら買うべきかしばし考えたが買わずに去り、最後に踏切を渡ってお寺に辿り着いた。そして、僕が三人分のお賽銭を出し来年の二人の大学合格を三人で祈願した。僕はその道中二人の他愛もない写真を撮ったが、それは来年になると熟成し食べごろになるだろう。

 僕たちは駅へ向かった。そして別れがきた。ユウは塾へ行くために横浜方面行きのホームに立った。僕とホノカはその反対側のホームに入って来た渋谷行きの各駅停車に乗って窓越しにユウにさよならの合図を送った。

「ただそれだけのこと」だった。

           *+*+*+*

 ユウとホノカ、17才の青春に触れたせいだろうか久しぶりに僕の心に爽やかな風が吹いた。そして、ホノカが電車を降りひとりになった僕はさっきまでの出来事が特別なファンタジーだったことに気づき始めていた。そしてしずかなさみしさに襲われたのだった。「ただそれだけのこと」だったはずなのに・・・。

さようなら、さようなら
ありがとう、ありがとう
こんな素晴らしい日にお別れするのはつらいけど、
こんな素晴らしい日だからこそお別れしましょう。
ユウはいつか僕を含む世間の物憂い人たちのためにその才能を使ってください。
ホノカはいつか君の時間設定で僕を含む世界中の忙しすぎる人たちを休憩させてください。
これは三人にしかわからない午後の夢だったね。
さようなら、さようなら。。。


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□僕は行き帰りの電車の中で大滝詠一のイントゥルメンタルアルバムを聞いていた。その収録曲の中から二人に『夢で逢えたら』を送ろう。もちろん吉田美奈子の歌で。。YouTube⇒



2012-06-04 : リトルファンタジー2012 : コメント : 0 :
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1992年より一般の女性をモデルに作品を撮り始める。2008年「鉄道と彼女」を発表した。
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