『純喫茶の女』・・・2012.12.23

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            †

 秋葉原から山手線の内回りに乗り戸袋の脇に立っていた。パイプの手すりを隔ててすぐ右下の座席に座っている若い女が僕を見ている。女の髪は茶のロング、身なりは良く顔はややエキゾチックだった。かなりイイ女である。御徒町で降りると女も僕の後を追うように降りてきた。立ち止まり、何か僕に用があるのか尋ねると、女は僕を知っていると言う。まさか、念のため過去に関わった女を思い出してみた。むかし関係があった女にしては若すぎる。それに美人すぎる。
 北口改札を出た。女も僕について出た。振り切らなかったのは女に少し興味があったからだ。改めて女の全身を見れば、足は細くスタイルも良い。連れて歩けば鼻高々であろう。僕が御徒町に来たのは、喜久屋カメラというレトロなカメラ店へ行き取り置きしてもらっているローライフレックスのパーツを受取るためだった。女にそれを告げると喜久屋カメラへ僕と行くと言う。この時の僕は、女を面倒な存在ではなく歓迎する方向に向かっていた。女に御徒町に来た理由を尋ねると、好きな喫茶店があるからと答えた。つづいて、僕の用が終わったらその喫茶店へ行こうと言った。
 僕が歩き出すと女もついて来た。北口を離れて横断歩道を渡ってすぐ右手に喜久屋カメラがあった。店は折からの銀塩不況のせいか展示スペースが狭くなっていた。以前は、階段を降りると地下いっぱいに広がる空間におびただしい数のドイツ製カメラが展示してあった。そこは愛好者の楽園さながらだった。いつもならカメラの夢を見ながら楽しい時間を過ごすところだが、女の処遇が気になって、速やかに買い物を済ませて店を出た。
 今度は僕が女の後をついて御徒町の商店街を歩いた。すぐにお目当ての店に着く。何のことはない古い純喫茶だった。そして、当然のように純喫茶と看板が出ている。看板はかなり古かった。メニューを飾るショーウィンドーも古い。何もかもが時代遅れだった。おそらく1970年代のものだろう。1974年に東京に出て来た僕も今では完全に時代遅れだという確信が頭の真上で停止した。淋しさに襲われた。この気持ちを女に悟られないように、レトロな喫茶店をそこかしことなく褒めて女の先手を打った。
 店に入った。地下一階に降りるとさらに階段があって地下二階もある。僕たちは階段を降りて地下二階の席についた。複雑な照明、造花、ステンドグラス、天使の裸像、意味不明な構造の天井部分、それを、柱を覆うように貼られた薄汚れた巨大な鏡が映し、この場所をさらに複雑に見せていた。
 僕たちは飲み物を注文したあと長い沈黙に浸るよりなかった。


            †

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□僕は僕かもしれないし僕ではないのかもしれない。事実に基づいているが、そうでもない部分もあるかもしれない。この話には続きがあるのだが・・・




2012-12-25 : 短編 : コメント : 0 :
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1992年より一般の女性をモデルに作品を撮り始める。2008年「鉄道と彼女」を発表した。
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