『スカウト』

2013.3.21(木)16時 渋谷にて

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 映画『ぼっちゃん』を観た。内容は朗らかそうなタイトルのイメージで想像してはならない。しかし、好きな映画ではあった。僕は鬱屈した気分を引きずりながら、ホテル街を抜けて井の頭線北口へ辿りついた。そのまま電車に乗るはずだったが、何か心に引っ掛かりがあって、改札の脇の不規則なデザインの階段を降りてビルの半地下へ。

 そもそも映画『ぼっちゃん』のチラシは2週間ほど前に公園通りの映画館の前で愛らしい女の子に手渡されたものだった。彼女が僕の前に現れなければこの映画を観なかったかもしれない。その時、僕にチラシを渡した女の子をスカウトしたのは言うまでもない。そんな縁で再び渋谷の映画館へ足を運んだ帰りだったから、また素敵な女の子に出会うような予感もあるにはあった。

 ビルの中へ入ると大きな雑貨屋が縦長にスペースを陣取っていて、僕はその脇の廊下を歩きながら店内を見た。客は女性ばかりで10人ほどだった。ひとりの女の子と眼が合う。好感を持ってもう一度彼女に視線をやるとまた眼が合ってしまった。僕は彼女が買い物を終えるまで待った。彼女の魅力的な眼差しを写真にして、いったい彼女の何が僕を惹き付けているのか確かめたいと思った。

 店を出た彼女にモデルになって欲しいと言った。彼女の名前は、まり。彼女にぴったりだと思った。聡明そうな眼、真っすぐな口調、媚びない笑顔、手入れのいき届いた髪、整った品の良い身だしなみ、小柄だが細く伸びやかな足。

 手帳に名前とアドレスを書いてもらった。きちんと本名で書かれてあったことに驚きはなかった。それこそ聡明な眼差しの証明、彼女の実直さの表れだった。

 彼女の愛らしさに触れた満足感から、仮に彼女がモデルになることを拒んだとしても、会話中に見せた爽やかな顔の輪郭こそが作品であって、写真はその時の彼女の記憶をなぞるだけなのかもしれない、などと写真家としてのあるべき使命のひとつを放棄しそうになった。

 つまり、後日彼女の中に潜む真実を撮った結果、自らに対する驚きや賞賛が彼女の心の中にわき上がるような、そんなサプライズを撮って見せることが写真家の使命であって、彼女との触れ合いの中に満足を見つけてはいけない。


 あとは、彼女が写真家の使命を全うする機会を作ってくれることを祈るのみ。


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□まりさんの作品をご覧になりたい方は拍手をお願いします。





2013-03-21 : スカウト : コメント : 0 :
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1992年より一般の女性をモデルに作品を撮り始める。2008年「鉄道と彼女」を発表した。
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