『洋館少女の思い出』・・・作品




2013.4.18 たま子


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 散ってしまった桜の花びらを追って最後のガクを落とした枝には新緑の芽吹きが見えている。薄ピンク色の吹雪が通りすぎたあとの穏やかなこのひとときが一年で一番美しい。

 少し歩いてみた。そよ風はあくまでも優しく亡き母のいたずらのように吹いていた。太陽の光はあらゆるものに反射して若い娘の皮膚の輝きを僕の眼に運んできた。風と光は僕の隣を歩くたま子を包みこんでいる。たま子は僕にとって何ものでもない、しかし僕の脇を歩くことがもはや何ら不思議ではないと言える、そういう奇跡が起きうる季節だった。

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 ある場所にさしかかったとき、懐かしさで全身の皮膚がすくんだ。風の向うから、新緑の葉の輝きの向うから、オルガンの音が聞こえてくるような気がした。ああ、あの少女が弾いている、僕はそう思った。

 少女というのは、僕が小学生の頃、商店街の裏手の雑木林の中にひっそりとあった家に住んでいた僕より幾つか年上の女の子のことだ。彼女の父親は町にひとつしかない銀行の支店長をしていた。支店長以外の行員はみんな町内の者だったが支店長だけは都会から数年に一度赴任してきて、この雑木林の中の洋館に家族と住んだ。僕は時々洋館の中庭に忍び込んだ。もちろん、少女に興味があったからで、何度か少女と眼を交わすことがあった。ただ、それだけだった。

 ある日、小学校に行くと僕のクラスに転校生がいた。転校生は男の子で絵が上手だった。彼の上手すぎる絵を見て僕は絵を描くことから遠ざかった。彼は銀行の支店長の息子だった。つまり、洋館の少女はもういない。

             ⁂
 
 僕は懐かしい思い出の中にいたままカメラを構えた。たま子は生成り風のノースリーブのワンピースを着ていて、髪はいつものように三つ編でお下げ。ちょうど、あの少女と同じだった。僕たちが立ち止まった一画は低い樹に囲まれ、あの洋館の裏庭に似ていた。僕はあの時、少女に伝えられるはずもなかった心の叫びをたま子に向けた。

「左の乳首を見せてください」
「・・・」
「右の乳首を見せてください」
「・・・」
「スカートを上げてください」
「・・・」
「後ろを向いてスカートを上げてください」
「・・・」
「下着を脱いでください」
「・・・」
「そして、スカートを上げてください」
「え?」
「黙って言うことをきいてください」
「・・・」


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□とりあえずこの写真をアップしましたが、本作品は7月の個展で展示します。






2013-04-29 : ファンタジー2013 : コメント : 0 :
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1992年より一般の女性をモデルに作品を撮り始める。2008年「鉄道と彼女」を発表した。
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