『風とリードの奏』




2013.10.13

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 爽やかな秋の気配が始まった郊外の公園の穏やかさは、都会のありとあらゆる苦しみを和らげて、考えうるすべての平和を助長し、この場所にいる誰もが限定的幸福に浸るに足りていた。そして、その温さがあまのじゃくな僕の心を逆なでしていた。

 大きなイチョウの樹の下に立つ僕の位置から丘へ向かって吹き登っていく風は、編み物をする母のように穏やかに公園を包みこみ、やがてその丘の頂点にある朽ちた切株の脇に立っている少女の髪をさっと梳かしていった。

 少女は何かを始める準備をしているようだった。僕が草むらを歩いて少女に近づいて行き顔の輪郭がわかるほどになった瞬間、少女がとても愛らしいことに気づいた。

「こんにちは。これから何をするの?」
「はい、サクソホンの練習をします」と言うと、縦長のケースからリードを取り出してプーと吹いた。

 少女が吹いたリードの牧歌的な音は爽やかな風にのり周囲の草や樹々、小川や鉄道の土手へと鳴り響いた。僕はある紳士が「お使いなさい」と貸してくれた古いローライコードのシャッターを静かに押した。そして、もう一度この少女に会いたいと思った。


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2013-10-13 : 26th個展へ : コメント : 0 :
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Author:ogaeri
1992年より一般の女性をモデルに作品を撮り始める。2008年「鉄道と彼女」を発表した。
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