『麻里子の棲むノスタルジア』・・・作品


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2013.10.22 model*麻里子

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 麻里子と会った瞬間に懐かしい気分になった。僕の青春時代のあちこちに確かに麻里子がいていつも美しく微笑んでいたように思う。麻里子は、誰の青春時代にもいた感じの良い子、古い青春映画のヒロインに例えるなら本間千代子か尾崎奈々みたいな。
 ある老齢な作曲家がニューヨークの街で奇麗なお嬢さんを見た時「悲しい」と言ったエピソードを思い出した。「あんなに美しいお嬢さんがいても、私はもう恋さえできないんだよ」と彼はつづけた。今、麻里子を前にした僕もそんな心境だった。

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 麻里子は家から真っ赤なリンゴを、僕はアイスピックを持ってきた。色白の麻里子は当然だが手も白い。僕はその手のひらにぬるぬるした赤い血のような液体をたらしアイスピックを握らせると、次の瞬間に麻里子は真っ赤なリンゴにアイスピックを刺した。僕は「美しい!」と声をあげたけれど、真意はそこにはなかった気がする。麻里子への暴力的な欲望を悟られないためのとっさの賞賛だったかもしれない。

 手を赤く汚した麻里子は、イヤリングを着けて欲しいと僕に言った。僕は麻里子のバッグから大きめの石をはめ込んだイヤリングを見つけ出し彼女の白い耳たぶに着けようと手を差し伸べた瞬間に手の甲が麻里子の頬に触れた。至近距離で見た麻里子の瞳の美しさと滑らかな皮膚の感触が僕の記憶に刻まれた。麻里子はいま僕の前に確かにいるが、ある瞬間に手の届かないところに行ってしまうだろう。彼女の持つ普遍的な美しさをそっとしておくほど世の中は緩くはないと思うからだ。


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2013-10-27 : 26th個展へ : コメント : 0 :
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1992年より一般の女性をモデルに作品を撮り始める。2008年「鉄道と彼女」を発表した。
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