『蛍子の夏」(ほたるこのなつ)





2014.8.8 model*蛍子

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 この女によってどこまでも伸びることを許された黒髪は先端が尻の下まで這っている。潤んだ眼差しは一見穏やかで人に語りかけるように優しく身体は程よくふくよかで昭和女を好む男にとって理想である。この女の柔軟な肌に触れた男は即座に心身ともに穏やかならざる変化を自覚する。やがて、男は間断なくやってくる肉欲を抑えきれず眠れぬ夜を幾晩も過ごすことになる。ついに男は女を手に入れるためにあらゆる計画を思案する。そんな危険な魅力を秘めた女の名前は蛍子、妖艶な名前である。

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 それは暑い日だった。私は蛍子と連れだって武蔵野の茂みを歩いていた。私の斜め後ろを足音もなくついてくる蛍子の方をみると、やわらかい笑顔を返してくるが言葉はなかった。なんど話かけても蛍子の答えは曖昧で声は遠くを飛ぶ鳥のようだった。

 私はシダが生えた薄暗い一画を見つけると地面に赤い布を敷いてその上に蛍子を立たせた。蛍子の古めかしい美しさは、例えば夏の幽霊のように妖艶だった。私の手は、ポーカーや将棋、麻雀のような勝負事において手元にまたとない切り札を得た時のように震え、夕立を浴びたようにしたたり落ちる汗が今の自分がぎりぎりの心理状態であることを表していた。空気は噴霧を浴びたように湿り、蛍子の体臭はその空気に溶け込んで周囲に浮遊していた。

「胸を出しなさい」私は勇気をだして蛍子を支配するような態度をとった。
「・・・」蛍子は素直に従った。そして私は蛍子の両手首に手錠をかけ拘束したのだった。

 私は無抵抗な蛍子の汗ばんだ乳房に長い黒髪がまとわりつくのを嫌って何度か払ったが、そのたびに髪はしつこく乳房にからみピンク色の乳首を隠してしまう。私は暑さと強い興奮がもたらす目眩で的確なカメラワークができなくなっていた。しかし私は構わずズミクロンとトライXを信じてライカのシャッターを押したのだった。

 私は蛍子が怖かった。それは蛍子から逃れたいというよりこの女のすべてを暴いてしまいたいという誘惑に対する恐怖だった。

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□27th個展にて展示します。

2014-08-13 : 27th個展へ向けて : コメント : 0 :
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1992年より一般の女性をモデルに作品を撮り始める。2008年「鉄道と彼女」を発表した。
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