『ナツクサカオル』・・・撮影終了



2015.6.1 model*薫

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 梅雨が近いこの時期になると少年時代に嗅いだ独特の匂いが甦る。それは、河原に生えた夏草の蒸れるような生命感のある匂いで精液のそれに似ている。僕が自分の部屋にいてその匂いを思い出したことと薫は無関係ではない。

 薫はつい数日前とつぜん僕の前に現れた一見普通の女である。写真を見ると、薫はどこか憂いをたたえた眼差しと小ぶりで肉厚な湿った唇を持ち、髪は短くボブというより乙女刈りに近く、全身に昭和の香を艶やかに漂わせて僕の心を揺らした。ついに、こんなイイ女はどこにもいないとさえ思わせるのだった。僕は三日後に薫と川へ行く約束をした。夏草の匂いのまっただ中に薫を座らせるつもりだ。そして夏草と薫の組合せが完成する。

 そして当日。土手の上で初対面の挨拶をする。
「やあ、はじめまして」
「こんにちは。薫と申します」
「突然ですが、ナツクサカオルと言ってみてくれませんか」
「ナ・ツ・ク・サ・カ・オ・ル。これでいいかしら?」

 二人は土手を降りて夏草の薫る河原の方へ分け入って行く。
「そこへ座ってごらん」
「はい」
「これから僕が言うようにしてほしいんだ」
「ナ・ツ・ク・サ・カ・オ・ル。みたいなことかしら?」

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『薫にはノスタルジアがある。僕や僕と同じ世代の男の過去になりうる女である。そんな薫を撮影したら、その写真はやりばのない過去の性の暗喩となるだろう。』

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 そして撮影した。薫は花束を抱き背後を夏草に覆われた川辺の砂地に座った。薫は下着を脱ぎさり脚を開いて、縦に割れた花びらを日光に曝したあと、手に持ったパパイヤの写真の切り抜きで、その花びらを隠したのだった。

「好きなものをひとつ教えてほしい」
「つげ義春・・・」





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2015-05-29 : 27th個展へ向けて : コメント : 2 :
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No title

  夏草に 汽罐車の車輪 来て止まる。

          山口誓子(1901~1994)





 解説

 駅の構内の引き込み線のそばに、夏草がおい茂っている。

 そこへ向こうから蒸汽機関車がゆっくりと進んできて、

 今にも夏草にふれるばかりにして車輪が止まった。

 辺りには白い蒸汽がみちて青草をつつんだ。



2015-06-02 01:22 : darkgrain URL : 編集
ああ、そうでしたね
僕はSLファンなのでこの句は知っておりました。めずらしく空で言える句です。ただし、今回のdarkgrainさんのコメントで初めて作者と漢字で書いたこの句を観た次第であります。まさに少年時代SLを追いかけた夏はこのとおりだったと思います。あなたのおかげで改めてこの句の良さがわかりました。darkgrainさん、ありがとう!!
2015-06-02 05:33 : 魚返一真 URL : 編集
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Author:ogaeri
1992年より一般の女性をモデルに作品を撮り始める。2008年「鉄道と彼女」を発表した。
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