『幸せの金魚鉢』



2016.6.20*reiko

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 女はマスクをしていた。それは一般に人々が常用している白いマスクではなく花柄のマスクだった。女は土手や河原に生えた野草と戯れているように見えたが、実は野草を摘んで金魚鉢に入れていたのだ。野草は金魚鉢というガラスの囲いの中で一息ついて幸福に見えた。

 女はブラウスを脱ぎブラを外し乳房に触れるように「幸せの金魚鉢」を抱いた。まるで幸福を独り占めするように。そして女はまた金魚鉢を覗き込んだ。

 どれほどの時間が経っただろうか、女は金魚鉢の中の野草にさようなら、と言って、土手の草むらの上に散骨するみたいに神妙に野草をばら蒔いてしまった。身内の死ほどに悲しみがあるかのごとく、そもそも摘んでしまったことを詫びるがごとくに。その時僕は女の心中に、小さな幸せはいらないわ、というような強がりな断片がどこかにあることを期待していた。
 
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2016-06-23 : 28thに向けて : コメント : 0 :
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1992年より一般の女性をモデルに作品を撮り始める。2008年「鉄道と彼女」を発表した。
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