『雨が落ちてくる前に』


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2016.11.2 model*さくら

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 朝起きて東京が寒いことに驚いた。故郷への想いのせいで何もかもが嫌になっていた。もう写真なんて撮る気もしなかった。でも、今日は娘を撮る約束があった。

 娘と川へ向かった。二週間ぶりの川がどうなっているのか、僕の河川敷スタジオがまだあるのか、堤防をこえてみなければわからない。僕は昨日まで故郷の飯田高原をさまよっていた。山にのぼり紅葉した樹々を眺め、沢沿いを歩き湧き水を汲んで飲んだ。湿原を歩きながら少年時代を思い出していた時、東京の河川敷スタジオがどうなっているのか気になっていた。そして今、堤防を超えて以前と変わらない河川敷が見えた時、僕はほっとした。

 頬にぽつりと雨粒があたった。撮影を急がなくてはならない。一本のガーベラを娘の胸元に立てて持たせた。すると、数年まえ公共放送で頻繁に流れた神妙な画面に似ていたので、花を目立たないところに配置することにした。そもそもこのガーベラは駅の近くにある花屋で娘の機嫌とりに買ったに過ぎなかった。娘への要求はいつものことで、ごく単純ながら口に出す段になると期待と断られた時の恥ずかしさが入り交じり躊躇してしまう。娘を見ていたら故郷から東京へ戻ったことを忘れた。娘は田舎っぽさを持っている。だから、僕はこの娘に惹かれるだと思った。

 娘の後方右側に樹の幹がくるように立たせた。そこは村はずれのように見える。胸元のボタンを外すように言う。ああ、なんて美しい乳房だろう。ああ、なんて可愛らしい娘だろう。ああ、なんて幸せな時間だろうか。半世紀前の妄想が甦った。やはり、僕は写真をつづけよう。僕の気持ちを元に戻してくれた娘に感謝した。

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□この写真は個展での展示作品ではありません。



2016-11-03 : 29th個展へ向けて : コメント : 0 :
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ogaeri

Author:ogaeri
1992年より一般の女性をモデルに作品を撮り始める。2008年「鉄道と彼女」を発表した。
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