『女子高生は電車の座席で爪を切る』


2017.2.17 model*ゆり乃

                   ﹆

 車窓を流れていく大きな公園の樹々は葉を落としたまま寒々しく制止して、鳥たちは何時もとさほど変わらないスピードで飛んでいる。今日はかなり風が強いけど電車の窓越しに強風を感じることはない。おそらく夕方のニュースで「今日は東京で春一番を観測しました」と告げられるのだろう。とにかくこんな日に、僕はセーラー服を着た清潔で無垢な娘と電車に乗っている。僕はこの娘といると昔の自分に戻ることができる。と言うより、強制的に過去へ誘われる。つまり娘は僕から時間の感覚を奪う「時を駆ける少女」なのだ。

 娘と向き合って座席に座り、カバンから爪切りを出して手渡した。えッ?!と大きく開いた娘の怪訝な瞳に猛スピードで流れる車窓の風景が映っていた。なんて可愛らしいんだ!僕は今現在この娘に恋をしている若者がいことを想像して嫉妬した。「爪を切ってごらん」というと、娘はスニーカーを脱ぎ座席の上に片足を上げ靴下を縫いで足の指を出した。「さあ、僕の眼の前で爪を切ってごらん」ともう一度言った。娘は一瞬僕の表情を伺うと、紺色のプリーツスカートの裾を品良く乱して膝を露出した。

 爪を切る女子高生をローライフレックスのファインダーに入れると左右逆像のセーラー服姿が霞んで見えていた。次にライカのブライトフレームの枠の中にきちんと納めたとき、僕たちの時間は完全に止まった。僕と娘は電車の中から瞬間移動して老女がウエイトレスとして働く喫茶店でコーヒーを飲みながらそれぞれのことを話した。娘の夢、これまで僕が歩んだ人生、そして互いの共通点などいろいろ語り合った。そして雨ちゃんがプレゼントしてくれたイルフォードのデルタ400をワンロール撮りきった時、僕たちはまた電車に戻った。ああ、この娘は僕の時代の子ではないんだなという思いが僕を少なからず落胆させたのだった。

「爪切り、おわった?」
「はい」
「君は夢を持ち続けてください」
「はい」
「僕はもう少し生きてみるよ」
「はい」
「君って、時をかける少女だよね?」
「はい?!」
                   ﹆



□この作品は神保町画廊で開催中の個展『トロイメライ〜夢想』でファイル展示しています。





2017-02-17 : 鉄道と彼女、 : コメント : 0 :
コメントの投稿
非公開コメント

« next  ホーム  prev »

プロフィール

ogaeri

Author:ogaeri
1992年より一般の女性をモデルに作品を撮り始める。2008年「鉄道と彼女」を発表した。
このブログのすべての写真や文章などコンテンツの無断コピー、無断転用を禁じます。

月別アーカイブ

ブログ内検索

FC2カウンター