『今日のわたしを写真にしてください』



2017.4.3 model*麻菜

 このところの花冷え。まだ桜が満開になれないでいる昼下がりに、ある国鉄の駅で麻菜と落ち合う。都電の小さな駅を右手に見ながら、江戸川の支流近くを通る広い道路をふたり並んで歩いた。

「ここへ来たのは四十年ぶりなんだ」
「そうなんですか!」

 これからそれなりに遠くにある彼女の家まで歩く。大通りを逸れて路地から路地へと歩く。やたらとY字路の多い古い通り。ジャージ姿の三人の女子中学生をコンパクトカメラでパチり。古い喫茶店の前を通り過ぎる時、ボクは懐かしさでいっぱいになった。あの頃と同じ風が麻菜の髪を揺らしながら通り過ぎていった。麻菜はボクの時代に確かに棲んでいた種類の娘だ。ああ、なんてことだ、ボクは四十年を失った。でも麻菜にはそんなことは伝わりっこない。アスファルトの道路の上に座り込んで傘の修理をしているお爺さんに、あのボクの四十年はどこにあるのでしょうか。と心の中で訊ねたのだった。ははは、じゃあ訊くが、ワシの七十年はどこへ行ったか知っとるかい?

 麻菜の家に着いた。小さな玄関を入り靴を脱いで彼女の部屋へ。ボクはとても疲れていた。持って来たチョコレートをたて続けに四粒口にいれてお茶をごくりと飲む。そしてベッドの上に麻菜を載せてあれこれ撮った。例えば麻菜の美しい胸の膨らみを撮りながら木の葉柄のカーテンを見ていたら、何だか寂しくなった。その寂しさはずっと昔からやって来た寂しさだった。

「ああ、ボクの四十年はどこにあるのだろう?」
「それはわからないけど、今日のわたしを写真にしてください。わたしを記録してください」
「わかった。ボクは麻菜の写真を撮りにきたんだから」
「・・・」


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2017-04-03 : 30th個展へ向けて : コメント : 0 :
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Author:ogaeri
1992年より一般の女性をモデルに作品を撮り始める。2008年「鉄道と彼女」を発表した。
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