『たゆけさの中で』



2017.5.11 model*Olivia

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 昨日とうって変わってとても暑く我が身には少し辛いほど。見上げれば完璧なほどの空の青さが怨めしい。つまり、あんなに素晴らしかった初夏が終わりに近づいていることを物語っている。救いは虫たちの動きはまだそれほどではないこと。その時僕は中也の詩からある言葉を引用したい気持ちを抑えた。

 娘を連れて大木の下にやってきた。去年すっかり伐採された大木の周囲の灌木たちは傷口を癒せぬままだった。それでも精一杯小さな枝を伸ばし新緑を付けていたし、地面には黄色い花が群生していた。なるほど、完全でないことの美しさがそこにあった。大木の根元に籐椅子を置きそこへ娘を座らせた。心の中にあったのは「美しい」という感嘆と「決して完全な女になってはいけない」というつぶやきだった。

 娘に花鋏を手渡し、身体の一部を切る振りをするように言った。娘は裸足になった右足の足首を左手で下着が見えるほどの高さに持ち上げて右手に持った花鋏を近づけた。ファインダー越しに花鋏は右足の親指を切ろうとしているように見えた。完全な女のアンバランスがそこにあった。僕はほっとしてローライフレックスTのシャッターを押した。

 返り道、ふと足下を見ると地面に何やらうごめく黒い塊を見つけた。それを見た娘はたじろいだ。近づいて見ると黒い虫たちが集団で交尾しているのだった。とうとう僕は「たゆけさの中で」と中也の『夏』の中から引用して呟いたのだった。


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2017-05-11 : 30th個展へ向けて : コメント : 0 :
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1992年より一般の女性をモデルに作品を撮り始める。2008年「鉄道と彼女」を発表した。
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