『侘しき交換日記』



2017.11.29 model*マリア

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 昨日のことでした。その小説を読んだのは三度目でした。読み終えたあと涙が止まりませんでした。いいえ、それはもう、号泣でした。僕はその深い悲しみを引きずった心のままに今日の撮影に向かっているのです。これから会う娘と僕は互いに心中に何らかの問題を抱えていて、さらに二人とも体調が悪いのです。そんな負の共通点だけが二人をつなげているのかもしれません。それとも、撮影に向かう情熱を考えれば、エロスに対する考え方にどこか似ているところある、などとかっこつけて考えることもできるかもしれません。

 しかし僕は命がけで娘と対峙する決意をし、娘は撮影の前に悩み抜いて最大のパフォーマンスを出し切るための努力を惜しまなかったのです。どうして僕たちはこれほどまで撮影にのめり込むのでしょうか。もしかして、そうしなくては現実を乗り切れないとでもいうのでしょうか。
 
 初めて娘に会った時、僕はきらびやかな印象を持ちました。こんな娘を撮れたらどんなに素晴らしいだろうか、しかも惜しげもなく裸体をカメラの前に曝してくれるとしたら。今日、娘と三度目の撮影をします。一般的にそれが多いのか少ないのかわかりませんが、僕にしてみれば奇跡的な回数としか思えないのです。今日娘は四種類の服を用意し、それぞれの服に合わせて髪型を変え、アクセサリーも替えていました。ただし僕はフィルムカメラを二台とフィルムを数本持っているだけで、用意された四種類の服での撮影をすることができるのかという疑問と、秋の日が落ちるのは早いことへの寂しさが僕の心中を乱していたのです。

 撮影が始まると、娘はとにかく美しいのです。ただただ可愛らしいのです。そして躊躇なく秋の柔らかい日射に肌をさらすのです。

「下着を脱いでくれないかな」
「ええ、」
「実はバナナを買って来たんだ」
「魚返さんの作品にはたびたびバナナが出てきますね」
「そうなんだ、いやかい?」
「・・・」
「それとね、君の乳首のことだけど、素敵なんだ。なぜかというと・・・」
「ええ、そうおっしゃってくださる人が他にもいます」
「そうだろうね、ヴァージニティの象徴というか」

 撮影は持ってきたフィルムをほとんど使い切りました。僕は娘とこの素晴らしい秋晴れの下で過ごした二時間を決して忘れることはありません。なんというか、初体験を失敗したあの後悔、女を性的に裏切ったときの懺悔、少女が悪戯される姿を見てしまった鬼畜の残像、そんな色々な思い出とともに残るべき秋の午後なのでした。
 
 撮影の途中で僕はその時の景色を残すために周囲を撮りました。今日の撮影を思い出したときの為に。娘に「撮影はどうだった?」と訊くと「なんて言うのかな、交換日記をしているような感じでした」と愛らしいことを言うのですが、僕は何故かとても侘しい気持ちになったのです。その訳は・・・秘密です。

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2017-11-30 : 31th個展に向けて : コメント : 0 :
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1992年より一般の女性をモデルに作品を撮り始める。2008年「鉄道と彼女」を発表した。
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